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つむぎとうか

   
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今ひとたびの a
パラレル・時臣さん先天性女体化注意
凛ちゃんは時臣さんの妹
言時←ギル

 行方不明者二人の足取りは造作なく掴めた。
 表向きは手掛かりがないという顔をして、実のところは半日単位で行動報告までさせていた。泊まった宿、利用した交通機関、全てを把握している。指示ひとつで彼らを押さえこむのも容易い。
 ギルガメッシュがすぐにでもそれをしないのは、ひとえにタイミングを計っていたからに過ぎない。自ら踏み込むための。

 その機会は、綺礼と時臣が消息を絶って十日めに巡ってきた。

 突然の着信に、綺礼はぴくりと身体を震わせた。
 表示されている番号は雁夜のものだ。緊急時以外は連絡しないと言っていたのに。
 ――言峰、時臣は今一緒に居るか!?
「彼女は買い物に出ているが……?」
 電話越しに彼が呻いた。
 ――すぐに迎えに行った方がいい。見つかる前に。
 紡がれた意味を理解した途端、荷物も持たずに部屋を飛び出していた。



 周りに注意しながらも、時臣はマイペースに籠の中身を点検し終えてレジを通った。
 警戒を怠るべきではないことはわかっている。だが、彼女は許婚が本気を出した場合の影響力を熟知していた。その気になれば直ちに捕まってしまうだろう。
 つまり、ギルガメッシュは自分たちの消息にはあまり興味がないのではないか?
 逃げた娘がやすやすと遠坂に戻れるはずがない。即刻、婚約は解消されるだろう。両親と妹を想うと申し訳なさと寂しさが交互に襲ってくるが、覚悟の上でしたことだった。綺礼と生きる道を選んだ。
 ほとぼりが冷めたら、逃避行もそろそろ終わりかもしれない。

 時臣の楽観的な予測は、店の外で待ち構えていた影によって跡形もなく崩れてしまうことになる。



 幻かと思った。
「何を惚けている」
 白昼夢が口を利くだろうか。首を振って歩きだそうとしたら腕を掴まれた。……逃げられない。
 頭の中が真っ白に染まる――
「どう、して、ここに」
 途切れがちに疑問を述べれば、ギルガメッシュの紅い双眸が陽を浴びて輝く。相変わらずの佇まいに、時臣は無性に泣きたくなった。
「異なことを。我が手ずから迎えに来てやっただけのこと」
「っ、帰りません!」
 力が入らないから精一杯の眼光で睨む。
 ここで連れ戻されたら台無しになってしまう。彼の気儘に振り回されるのはもう御免だ。
「そう言わずに来い。……戻れ、時臣」
 気づきたくなんてなかったのに。
 譲歩するような物言いにも、縋るような視線にも。握られたてのひらが小刻みに震えていることにも。
 彼女の知るギルガメッシュとは別人で、これではまるで求められているみたいだ。
 甘い錯覚を振り払うように、深呼吸をひとつ。
「嫌――……です」

 真正面から彼を見たのは何年ぶりだろう。
 双方、表情が歪んでいるのを自覚していた。

   +++++

 初めて彼女に逢った日を思い出す。
 遠い昔の出来事だ。

 物心ついた時、ギルガメッシュの周囲には誰もいなかった。
 両親も祖父母も健在だったが、後継者以外の子どもには愛情以外を与えて放置していた。誰ひとり彼を顧みなかった。
 それでも、一族の威光は幼いギルガメッシュにも及ぶ。
 同年代の友人など望めない。いるのはただ家名に慄いた取り巻きだけ。
 教師さえ彼に逆らわない学校生活には早々に見切りをつけた。



 遠坂時臣は、日本で生まれたものの各国を転々として育てられた。
 生家は冬木の名家であったが、彼女の父は外交官をしていた。時臣の母とは赴任先で結ばれ、次女の凛が生まれるまでは家族三人で一国に留まらぬ暮らしを送っていた。
 茶色の巻毛に、澄んだ蒼の瞳。それでいて東洋の血もしっかり宿した少女はどこに居ても目立ったが、どこにも馴染もうとしなかった。
 だって、どうせすぐに別れが訪れる。訣別が辛い友人を作るよりは、持ち運べる書物に親しんだ方が有益だ。少なくとも知識は裏切らない。

 暇さえあればあらゆる活字を読み耽っていたクラスメートに、気まぐれに声を掛けた。
 実のところ、転入してきた日から顔だけは覚えていたのである。教室の隅で誰とも交わらなかった少女が何を考えているのか、徐々に好奇心を膨らませたのである。
『トオサカ、我らに混じれ。このままでは人数が余るのだ』
『お断りします。読みかけの本が気になりますし』
 ――それに、動くのは苦手なので。
 きっぱりと否定されると是が非でも誘いたくなる。というか、心底迷惑そうな反応だった。追従ばかりの他の生徒たちとは違う。
『仕方がない、お前がその本を閉じるまで待とう。その代わり終わったらきちんと図書館に返却するのだぞ、それから相手をしろ』
『……意外と忍耐強いんですね』
 さも想定外、というように眉を顰められたが、ギルガメッシュは発言通り読書する時臣を見守っていた。変化がなく退屈な時間だったが、本の世界に熱中している彼女を眺めるのは飽きなかった。
 他の“友人”たちとの遊びを引き換えても惜しくはないくらいに。

 賑やかなことでもしなければ紛れなかった無聊が慰められてゆく。
 放課後は自然と並んで図書館へ通うようになり、近くの席に座り別々の書物を読んだ。
 不思議な関わりだった。ギルガメッシュも時臣も決して雄弁ではなかったのに、過ごす時間だけが増えていった。
『お前はまだ我以外を徹底的に拒絶しているな、トキオミ』
『歓迎してるわけでもありません。貴方が特別しつこかっただけです』
 つれない言葉を吐きながら、少女の口元は隠しきれなく緩んでいる。それを発見した自分も同様に。
 互いに名前で呼び、家族にも挨拶するようになった。ギルガメッシュは遠坂の家格が己と較べてもそれほど劣らぬことを知って心を躍らせた。

 大事な物は、手に入れておくべきだ。
 そう、ギルガメッシュが望んで手に入らぬものなどこれまでなかったのだから。



『決めた。我が妻となれ、時臣』
 人差し指を突き出して、約束を請う。
 時臣が自分に丁寧に接しながらも同等の扱いを心がけてくれていることは気づいていたので、頼みごとも必ず聞き届けられるとは限らなかった。内心どきどきしながら尊大に言い放った。
『でも、ギル。私、もうすぐ日本へ戻るんです』
『だから今のうちに言っているんだ』
 離れている間も安心できるように。そして、いつかの未来に手を繋げるように。
 必死な様子のギルガメッシュに気圧されたのか、時臣はしばらく考え込んでいた。あまりに二つ返事でも微妙な気分になるだろうから、まあいい。
『ええ、わかりました。つまり、貴方とは婚約者ということになりますね』
 離れても忘れられたくない。彼女の心を縛っておきたい。

 願いは叶えられた。
 “遠坂家長女”は、長男でもないギルガメッシュにはうってつけの相手だった。双方の両親も喜んで了承し、彼らは公認の許婚となった。
 満足したギルガメッシュは気づかなかった。“大人たち”の思惑を混ぜた途端、時臣の態度が僅かに硬くなったことに。



 月日が流れた。
 高校を卒業したらすぐに、という案もあったけれど、お互い自国の大学に進学した。遊び半分のギルガメッシュはともかく、彼女は真剣に勉強したい内容があったらしい。
 ギルガメッシュはふらふらしていたが、一番大事な面影を忘れたことはなく、同じ大学に留学を決めた。
 秒読みで己の妻となる時臣が、どんな女になっているかを早く見たい、という目的だった。


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