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つむぎとうか

   
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彼との不毛な日々について b
雪男視点

 背中に回した腕に嬉しそうな声をあげないで欲しい。爪を立てて傷を増やしてしまうだけなのに。
痕を残してだなんて、どんな表情で囁いているのか。暗がりの上近眼だからわからない。ぼやけた視界で輪郭をとらえ、頭を引き寄せ告げる。
「はやく、おわらせて」
怠いんです、と理由を添えれば、ゆるく刺激を加えていた指先が止まった。
「……俺に抱かれるんはつらい?」
「いえ、そういうことじゃなく」
志摩の愛撫はいつもいつも丁寧過ぎるのだ。
おかげで明らかにされてしまった、全身に散る弱い箇所。どこに触れられたいのかと問うくせに、直後の手つきは完全に知り尽くしている者の、それで。呻く声を聞かせたくなくて肩口を噛んだのに、流れる血にさえ目を細めた。

優しさに溶かされてしまいそうだ。
だから、悪魔の名残など移したくはないのに。
合意の上でおなじ寝台にいるのだから、拒みたいならそもそも呼び出さなければ良かったのだ。不定期に発信する空メール、受け取った彼は兄が眠っただろう時間に忍んで来る。

送ってしまってから後悔することもある、というか今晩がまさにそれだ。塾の後の任務で少々の苦戦を強いられて、相手どった悪魔の大量の血を浴びることにも、なって。チームを組んでいたメンバーからも指摘されたにおいは、シャワーを浴びても完全にはとれなかった。
志摩が扉を開けた時、ごめん、今日は止めよう、とそのまま眠ってもらおうとしたが、あまりに勝手だと自分でも思った。
そない消えそうな声されたら、余計不安ですわ、と押し倒される格好になった。けれども乱暴だったのはほんの少しの間だけ。彼にとっては何のメリットもなく、その気遣いを受け取るべきは自分ではないのに。

本当は、手酷く扱って欲しかったのだ。異性に鼻の下を伸ばしていても、軽薄に嘘を並べる彼なら蔑みながら乗ってくれるのではないか、と。純粋に好いてくれる人の気持ちは受け取れないから。

『へぇ、面白そうですね』
遊び感覚で付き合ってみませんか、という提案に、果たして志摩は興味本位で首を縦に振った。
気持ち悪がられたら冗談にしてしまうつもりだった。本当に軽い好奇心で。
いつでも手放せるよう、相手にも重たく受け取られないように。
“恋人”らしいことなんて一つもしたことがない。
学校ではさほど親しくない生徒同士、塾では講師と教え子。週に一度くらいの頻度でイレギュラーが発生するだけだ。此の部屋に居る間だけ、いつもこうだと錯覚しそうなほど優しい伸ばしてくる腕に身を委ねる。

「君に一番好きな人が出来れば、終わりにしましょう」
伝えるというより、自分に言い聞かせるように。
無意識のうちに口走って、その瞬間志摩が顔を歪めたことに雪男は気づかなかった。
疲弊したからだを広げたシーツに沈めた。

――いまさら、まともな関係なんて望むべくもないだろう?
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