つむぎとうか
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pillow?
志摩→雪
夕闇迫る室内で、志摩は足が痺れたにも関わらず満ち足りた顔をしている。 フローリングの床に敷かれた、埃ひとつないカーペットに腰をおろして。
そこは所狭しと机が並べられた四人部屋ではない。特例の二人部屋だ。
彼の膝元では、この状況を招いた当人が静かな寝息を立てていた。
奥村雪男は多忙である。 朝昼は学校、夕方からは祓魔塾の講師、そして夜は自分の宿題や塾の準備を進めながら燐の勉強を手伝う。余暇の殆どを娯楽にと考える志摩からしたら信じられない時間の使い方だ。予定は埋めるべきという彼の持論を聞いた時、この人絶対に過労死するわ、と確信した。
学校はともかく、塾は平日に二日は休みがある。燐が張り切って買い出し・クロの世話・晩餐の支度に費やす自由時間を、雪男が部屋から出ず泥のように眠っていることを知ったのは些細なきっかけ。課題の質問に行ったら迎えた雪男が夢現状態だったのだ。
指摘したら彼は真っ赤になって目を逸らした。
『不眠気味なのを補ってるんです――決して怠けてるわけじゃ、』
『先生が怠けてるんやったら俺なんてどうなってしまうんです?』
見ないでくれと俯いた彼を、見つけたのが自分で良かったと微笑んだ。そうして。
志摩は、悪戯半分に「膝枕しましょうか」と申し出たのだった。
あっさり頷かれたのには拍子抜けした。
『じゃあ、お願いしますね』
正座してここですよと示した膝にごろんと頭を預けられ、意識が沈むのは早かった。強力な睡眠薬を服用して、よほど箍が外れていたのだろう。
その日を境に、志摩は雪男の眠りを見守る権利を手に入れた。
一度きりの頼みを、塾がない日だからとまた押しかけたのは我ながら強引で。拒まれなかったが訝しがられた。
『何の見返りもないのに、わざわざ訪ねてくれるんですか?』
女の子を口説く手練手管を駆使して宥め、奇妙な付き添い睡眠はもう習慣と化した。
今では志摩の体温に安心するらしい。無防備な寝顔は双子の兄より多く見たかもしれない――燐は雪男より早く寝て遅く起きるタイプだったので。
(見返り、めっちゃあるんやけどなぁ)
威圧的なコートも分厚い眼鏡も取り払った、素のままの表情はあどけない。同学年であることを実感できる数少ない機会だ。
頬に指を伝わせ、閉じた瞼をそうっとなぞって、彼の輪郭を堪能する。
もっともっと安心して欲しいと、囁きかけても目覚めやしない。
「知らんままでいてくれたらいいわ」
常備してある睡眠薬を全部捨て、ビタミン錠にすり替えた。
その唇を塞ぐ真似事までしても、身じろぎもしないのは、それだけ志摩が浸食するのに成功しているということ。
(薬のせいにはさせへんで?)
いつの日か彼を手に入れる切り札とするために。
志摩がなりたがったのは安眠剤ではない。
性質の悪い甘い毒だ。
――心のある枕を選んだ、先生が悪いんやで?
そこは所狭しと机が並べられた四人部屋ではない。特例の二人部屋だ。
彼の膝元では、この状況を招いた当人が静かな寝息を立てていた。
奥村雪男は多忙である。 朝昼は学校、夕方からは祓魔塾の講師、そして夜は自分の宿題や塾の準備を進めながら燐の勉強を手伝う。余暇の殆どを娯楽にと考える志摩からしたら信じられない時間の使い方だ。予定は埋めるべきという彼の持論を聞いた時、この人絶対に過労死するわ、と確信した。
学校はともかく、塾は平日に二日は休みがある。燐が張り切って買い出し・クロの世話・晩餐の支度に費やす自由時間を、雪男が部屋から出ず泥のように眠っていることを知ったのは些細なきっかけ。課題の質問に行ったら迎えた雪男が夢現状態だったのだ。
指摘したら彼は真っ赤になって目を逸らした。
『不眠気味なのを補ってるんです――決して怠けてるわけじゃ、』
『先生が怠けてるんやったら俺なんてどうなってしまうんです?』
見ないでくれと俯いた彼を、見つけたのが自分で良かったと微笑んだ。そうして。
志摩は、悪戯半分に「膝枕しましょうか」と申し出たのだった。
あっさり頷かれたのには拍子抜けした。
『じゃあ、お願いしますね』
正座してここですよと示した膝にごろんと頭を預けられ、意識が沈むのは早かった。強力な睡眠薬を服用して、よほど箍が外れていたのだろう。
その日を境に、志摩は雪男の眠りを見守る権利を手に入れた。
一度きりの頼みを、塾がない日だからとまた押しかけたのは我ながら強引で。拒まれなかったが訝しがられた。
『何の見返りもないのに、わざわざ訪ねてくれるんですか?』
女の子を口説く手練手管を駆使して宥め、奇妙な付き添い睡眠はもう習慣と化した。
今では志摩の体温に安心するらしい。無防備な寝顔は双子の兄より多く見たかもしれない――燐は雪男より早く寝て遅く起きるタイプだったので。
(見返り、めっちゃあるんやけどなぁ)
威圧的なコートも分厚い眼鏡も取り払った、素のままの表情はあどけない。同学年であることを実感できる数少ない機会だ。
頬に指を伝わせ、閉じた瞼をそうっとなぞって、彼の輪郭を堪能する。
もっともっと安心して欲しいと、囁きかけても目覚めやしない。
「知らんままでいてくれたらいいわ」
常備してある睡眠薬を全部捨て、ビタミン錠にすり替えた。
その唇を塞ぐ真似事までしても、身じろぎもしないのは、それだけ志摩が浸食するのに成功しているということ。
(薬のせいにはさせへんで?)
いつの日か彼を手に入れる切り札とするために。
志摩がなりたがったのは安眠剤ではない。
性質の悪い甘い毒だ。
――心のある枕を選んだ、先生が悪いんやで?
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