つむぎとうか
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カイルカ前提のリン→カイ。
暗い死ネタで酷い電波なので色々と許せる方向け。
孤児院で育った疑似家族たち。
最初に謝っておきますごめんなさい。
途切れがちな寝息と、眉間に寄った皺。
今にも呻きそうな苦悶の表情を浮かべながら、なんとか眠っている男を見下ろした。
唇で涙を拭う。
「もう、解放してよ」
傍らの肌を強く抱き寄せながら、リンは枕元の人影に呼びかける。
幻は微笑を崩さなかった。
生まれた直後に双子の弟共々捨てられ、十四の現在まで孤児院で育った。
両親がいない代わり、施設の仲間全体を血を分けた家族のように思ってきた。レンはかけがえのない半身だが、他もたくさんの兄弟姉妹がいるのだ。
彼らの中でも特別な存在が出来た。
最年長で世話焼き、どんな相手にも隔てなく優しい兄代わりーーカイトに初恋をして。
幼い時分だったけれど、芽生えた直後から叶わないとわかっていた。
彼が同い年の穏やかなしっかり者、ルカと想い通わせていることは、施設の職員まで全員にばればれだったから。
『カイ兄とルカ姉は付き合ってないの?』
『こら、どこで覚えたんだその単語』
六歳離れているのに、からかうと真っ赤になって慌てるカイトもルカも大好きだった。
『血液鑑定?たしかあの二人はどちらもO型ですけど』
『詳しい検査をしましょう。ルカさんの両親が名乗り出たんです』
『置き去りにした場所が別々の、男女の双子だったとーー』
その知らせは突飛な法螺話よりも信じ難い内容だった。
カイトとルカは異なる日に施設に送られたのだ。つながりがあるなど想像出来る筈がない。
数日のち、普段は温厚な園長が蒼白な顔でカイトとルカを呼び出した。
それが、寄り添う二人を見た最後になった。
信じられないが、仲の良い恋人同士は実のきょうだいだったらしい。
ルカは夢だった奨学金つき留学の機会が文字通り降ってきたようで、翌週には日本を発つという急な話だった。
彼女の意志がどこにあったかを聞けないままに。
引き離されて抜け殻のようになったカイトが残された。
心の隙につけこんだのはリンだ。
『カイ兄、つらい?私もね、レンのことを好きになってしまったの』
告白しても、応えてもらえないと考えたから、身代わりとしてのぬくもりを求めた。
『やり場がないから受け止めて』
本当はずっと貴方が欲しかったのだとは言わず。
騙しているのだから当然だけど、カイトがいつまでもルカにとらわれているのを触れる度に実感する。仮初めでも、側に居るのはリンなのに。
リンの心を反映しているのだろう。
今宵のように夢枕に現れ、微笑んでカイトの頬を撫でていく、まぼろし。
教室で欠伸を堪えている所を、レンに指さされた。
「寝不足?隈目立ってる」
「う、とらなくっちゃ」
赤い眼をごしごし擦って焦った演技をする。
「オレもここのところ睡眠不足なんだけどさ、同じような夢ばかり見るんだよ」
「へえ、どんなの?」
「ルカ姉がいるんだ」
息が止まりそうになった。
「いつでも泣く寸前の顔してて。気丈なルカ姉でもやっぱ苦労してるのかもな」
「長期留学はどうしてもねー。ま、ルカ姉なら大丈夫よ」
弟は知らない。カイトとルカの関係も、ここ最近のカイトとリンの秘密も、何ひとつ。
「カイト兄も元気ないよなー。べったりだったからって、ルカ姉離れ出来てないんだよ」
「じゃあ、自立するいい機会なんじゃない?」
さらりと流せただろうか。この話題を続けられる自信はない。
隠すのも時間の問題だろうが。
(ルカ姉は、悲しみも喜びも感じない場所にいる筈よ、レン)
もう何も届かないところに。
『はい、お世話になって…えっ!?』
連絡がきた時、たまたま居合わせたのはリンだけだった。
――空港で手を振って見送った姉代わりの、突然死。
事故だと告げて口ごもった、電話の向こうの声から、自殺だろうかとぼんやり思った。
静かに見えて激しい女性だった。カイトが惹かれたのも、そうした中身だったのかもしれない。
叶わない想いだから、断ち切った。自らの手で。
縛られたのは生者たちのみ。
(いつかでいいから、私を見て欲しい)
うわごとで呼ぶ名前が、変化する日を待ち望む。
終わり