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つむぎとうか

   
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不定期訪問
土洪。恋人同士。
いちゃつかせたかったんです・・・これでも。

近づかないで。
でも、消えてしまわないで。

夕飯の材料を携えて帰宅してみると。
玄関脇の植え込みに、うずくまる大きな図体。
「またなの?」
合鍵は渡してあるのに。
「遅かったじゃねぇか」
「そうね、ご近所に怪しい仮面男が通報される前で良かったわ」
がちゃり扉を開け、手を差し伸べ招き入れる。
トルコは、ハンガリーの肩に寄りかかるようにして後に続いた。

妙な具合に勘が働いて、今夜は鍋料理だ。量もあるし、季節柄もてなしに最適なメニューである。
(泊まっていかない筈もないわよね)
手土産も持たず、客というより居候だが、この男が来る頻度自体はそう高くない。
来訪は毎回突然で、いい加減ハンガリーも扱いに慣れた。
ぼこぼこにされたり支配下に置かれたりと、かつては相当険悪だった相手だが、現代では関係も変容していた。
昔時分では到底考えられないような甘い感情を含んで。
・・・いわゆる“恋人同士”。
ただ、長い音信不通が当たり前の緩やかな交際だった。
「何があったのかしら?」
キッチンで材料を準備しながら、推測してみる。この前は病み上がりで人恋しいとか喚いていたのだっけ。
連絡したらこちらから赴くのに。
『家に居たくないんでい』
河岸を変えるなら、お前さんの顔も見たかった――子どものように述べる様子は、意外と可愛かった。
たとえば、寂しい時、ぬくもりが欲しい時。周りに誰もいないというわけでもあるまい。いがみ合っているが隣人や国民たちともそれなりに親しくしている男 だ。
ふらりと会いに来ては、不義理を詫びるでもなく(というかお互い様だ)一晩だけ過ごして、仕事に支障のないように翌朝には戻っていく。
彼なりの気遣いなのだろうか。
「でも私、明日は休暇なのよ」
「俺もだ」
なら、ゆっくりしていけば?
ソファでぼんやりしている所を引きずって、配膳を手伝わせた。そろそろ食器棚の中身くらい把握している筈だ。
トルコが無言なら、ハンガリーも反応しようがない。待っていただなんておくびにも出さないのだ。
・・・見透かされているのかと思うと腹が立つけれど。
繋ぎ留めない代わりに、離れそうになったらそっと呼び戻す。
適度な距離を保っていられるように。
(多分、これは自己防衛なのよね)
彼女にはわかっていた。必要以上に近づきすぎると、強く依存してしまう。溺れて絡まり、呼吸出来なくなっても可笑しくはない。
長い間慕情を蓄積させてきたのだ。

いまの立場を決して手離すまい。
が、表面上は何事もなさそうに淡々と食卓を囲んだ。
仮面を取った男も寛いでいる。

愛を囁くのは、闇がもっと深くなってからでいい。

終わり

(あの頃の自分が知ったらしばらく寝込むでしょうね)

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