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つむぎとうか

   
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あわれなけもの(後)
リン登場でレンミクではない何かになりました。
原曲さまの素敵さを台無しにする妄想でほんとごめんなさい。

魔法に触れた日のことはいまでも覚えている。
嬉しくてたまらなかった。髪や瞳の色が周りと異なるというだけで幼いミクを排斥する故郷の村から、これを覚えることで解放されるのだと思った。

念願叶って人から獣へ姿を変えた時。
それでも、生まれ持った顔形は捨てられないのだと知った。
「オレの生まれ育った所もそんな感じだったよ」
屈託なく述べる。勝手に、レンは愛情をいっぱい受けて生きてきたようなイメージを抱いていたのだが。
「うん、家族には恵まれたほう。けどもう両親もいないし、双子の姉ともバラバラになったな・・・」
それは初めて教えられたレンの素性だった。
「そっか。レン、ただの迷子じゃなかったんだね」
ならば、いつか去ってしまう心配もしなくていいのだろうか。

数か月後、希望の芽が摘み取られる訪問者がやって来た。
「捜したわよ」
一目でわかる、レンそっくりな容姿の少女。
「よくここまで。今までどうしてたの?リン」
「こっちの質問よ全く!」
物陰に隠れて見守るミクを見逃さず、物怖じしないのも弟同様だった。
「はじめまして。レンと一緒にいてくれてありがとう」
連れ戻すなどとは口にしないで、自由にすれば、と彼女は笑った。安否がわかれば構わないのだからと。
それからリンも近辺に居を構えたらしく、月にいちどは城へ顔を出すようになった。

冷たかった孤独の空間に、突如現れた、溶けてしまいそうな陽だまりに。
いつまでも馴染むことが出来なかった。
「レンやリンが優しさをくれるのは、嬉しい。同情だとしても」
予防線を張る度にレンは苦笑しながら頭を撫で(ミクの背をとうに追い越していた)、リンは怒ってぽかぽか殴ってきた。
月日は巡る。死なない半獣と、生身の人間に容赦せず。
その間、信じられないような幸福が途切れることはなかった。
「――ここはもう、オレの還る場所だよ」
いつまでもあどけない面影で、老いていくかつての少年。
(あなたは私に恐れを覚えさせた)
別れまでのカウントダウン。

生活を共にして、半世紀も経ったある冬の昼下がり。
頬に皺を刻んだレンが腕を伸ばした。
「ごめん。これ以上は無理みたいだ」
泣く寸前で堪えて、毛むくじゃらの指を絡ませる。病魔に蝕まれ弱っていく身体を蘇生させようと何度も魔法で誤魔化した。
けれどもう、限界だ。
「ありが、とう」
最後までミクを案じ見つめ続けた魂が逝く。
いってしまう。
「レン・・・っ!」
ゆるされるなら共に朽ちたかったのに。

ほどなく、リンも城へは来なくなった。結婚し家族を持ちながら、弟とミクとの関わりも保っていた彼女も、いまはミクを置いて遠く彼方に。
最大の後悔は、ミクから「愛している」と伝えられなかったこと。
彼らが死ぬまで臆病の殻を脱げなかったことだ。
(愛しくて、おそろしかったのです)
手に入れてから失うことが。

さよならは告げません。
少なくとも彼のからだは、わたしのもとに遺されたのですから。
(何千年先でも、離さないから)
いつかまた、どんな形でもあなたに会えることを願っている。

終わり

ひとりではもう、生きられないから。
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