つむぎとうか
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ぷはん可愛いですぷはん。
季節は急速に冬に向かっているけれど、今朝は晴れ渡った空に過ごしやすい気温で、まさに外出日和だった。
つい先刻までは。
まるで、天候がそのまま彼らを語っているかのようだ。
「全くもう・・・」
ハンガリーは、くしゃりと瞳を歪ませた。――長い髪で表情を覆い隠して。
本当はこんなはずじゃなかった。
ウィンドウショッピングをして、目星をつけていた流行型のコートを試着して、同行者のよしみで感想を教えてもらいたかったのに。
『“買い物に付き合え”?まさか、フライパンを新調するから殴り心地を俺で実験しようと、』
『ひねくれてんじゃないわよ。服を見に行くのっ』
電話で誘うのは勇気がいった。会うたび喧嘩ばかりの相手と、休日まで顔を合わせてくれるだろうかと不安が拭えなかったから。
『いつだ?・・・あー、その日は午後から仕事がある』
がっかりして通話を切ろうとしたら、午前中なら大丈夫だと慌てて言い添えてきた。
『でも、スケジュールきついでしょ。無理なら今度でいいのよ』
『いいんだよ、出張でそっち方面に滞在してるから。10時でどうだ?』
スムーズに取り付けた約束。
10時ぴったりにチャイムが鳴った。
『おはよう、プロイセン。わざわざありがとう』
多少ぎこちなくても、挨拶まではちゃんと出来たのに。
けれど、その後がいけなかった。
連れ立って歩いたら歩調が合わない。プロイセンはゆっくりめに歩こうとするし、ハンガリーは気遣い無用だとばかりに早足で進もうとした。
定休日はチェックしていたのに、目当ての店は閉まっていた。
『臨時休業か。まあ気を落とすな』
せめてお茶でもと、近くの喫茶店に入ったら。
向かい側でコーヒーカップを持ち上げながら、プロイセンがぽろりと雫したのだ。
『にしても今日は念の入っためかしこみようだな。さてはこの後、坊ちゃんとデートでもするのか?』
いつもより早起きして服装にもメイクにも変化をつけてみた。この男にわかってもらいたくて。
二時間程度しか確保できなかったけれど、ハンガリーは“プロイセンと”デートするつもりでいたのだ。
何ひとつ、伝わってないーー馬鹿みたいだ!
『もういいわ。・・・忙しいのに悪かったわね。とっとと仕事に戻りなさいよ』
低い声で唸りながら、席を立ち去った。
寒風さしこむ公園のベンチ。
すぐ帰りたくなくて座りこんだら、しばらく動けなくなった。
後悔の念が次々と押し寄せてくる。
(あいつと二人のとき、うまく話せた経験がないわ。可愛くないことばかり)
どんより曇ってきたので、帰ろうと思う。昼食を準備しなければ。
沈ませていた腰を上げ、スカートの埃を払っていると。
~♪
携帯の着信音が響いた。
ディスプレイに表示された“ドイツ”の文字に、通話ボタンを押す。
『兄貴に代わってくれるか?滞在先のホテルに携帯電話を忘れてきたらしくて、繋がらない』
『もう解散しちゃったわ』
『・・・妙だな。ゆうべから兄貴は浮かれ通しで、ぎりぎりまでハンガリーと一緒に居るものと踏んでいたのだが』
『え?』
『邪魔をした。失礼』
『待って、切らないでドイツ君!』
ちょっと、教えて欲しいことがあるんだけどーー
受話器を置いたドイツは、普段に増して眉間に皺を刻んでいた。
「これで良かったのか、イタリア。ホテルの名前を聞かれたが」
「うん、予想してた展開だよー」
なぜかドイツの家のソファでくつろいでいるイタリアだが、恋愛沙汰になると頼りになるアドバイスをくれる。
「ハンガリーさん、プロイセンの仕事が終わった頃に会いに行くと思うよ」
「そこで第二次の喧嘩が勃発しなきゃいいが・・・」
「大丈夫だって、あの二人なら!」
心配そうなドイツを宥めながら、イタリアは思った。
(ドイツ、プロイセンの恋路が実らないって考えてるみたいだねー)
ハンガリーの気持ちも、一目瞭然だろうに。
鈍感な兄弟だなあと、呆れてため息を吐いた。
イタリアの予想は外れだ。
自宅に戻ったハンガリーは、ホテルの連絡先を調べて伝言を頼んだのだ。
さらに、同じ内容のメールを送った。
“お疲れさま。夕食はホテルのレストランでとるの?予約してないなら、もう一度家に来てくれない?色々作って待ってるから”
エプロンを装着して髪を後ろで束ねる。
約半日もかければ、御馳走が用意出来るはずだ。
ちゃんと笑いかけて、喜んでもらいたいと願う。
(埋め合わせになるかしら)
その瞬間の彼女は、誰が見ても“可愛い”と形容するであろう表情をかたちづくっていた。
終わり