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つむぎとうか

   
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まだ、咲かない
パラレル・女体化注意。
高三時臣と小四女の子ギル+α

まだろりこんじゃないよ

 花のように愛らしい貌が、時臣を見上げる。
 じっと、無心に。幼いのに整って美しい顔立ち、中でも特に鮮やかで、人を惹きつけずにはいられない、磨き抜かれたルビーのような双眸。
「私が男で、王だったなら、お前を臣下にしてやるのに」
 尊大に腕を組み胸を反らしなどしているが、時臣の肩にも満たぬ背丈でその格好をされても微笑みを誘われるだけだ。
 どこで聞いたか、少女は心底楽しげに“臣下”という単語を口にする。
「光栄ですね、ギル。が、なぜ臣下なのですか?」
「そうしたら、ずっと一緒にいられるんだって、璃正が言ってた」
 時臣の父と親しい教会の神父は、そういえば中世あたりの騎士物語が愛読書なのだと言っていた。あるいは時代小説だったか。
 強きを挫き弱きを助け、主役に必ず忠実な部下がいるのがお約束である。
 己との関係を鑑みて、意外と核心を突いてるな、と感心した。彼がギルと呼んだ気の強い少女は、遠坂家の大事な取引相手の一人娘なのだ。



 ギルガメッシュたちが近くの屋敷に越してきた日のことを、時臣は鮮明に覚えている。
 遠坂も地元の名家だが、彼女の一族は世界規模の資産家で、ギルガメッシュは直系の娘だ。
 家族三人が冬木という日本の一都市に居を構えてすぐ、時臣は父に促されて挨拶に訪問した。

 少女は齢五つを数えたばかりだった。
 時臣の姿を認めると、人見知りにびくりと肩を跳ねさせた。でも、ほんの一瞬で物怖じを引っ込めて時臣を見返す。燃えるような紅は自分の持つ蒼とは対照的で、思わずしげしげと見入ってしまった。
 当時、時臣は中学生。幼い女の子への接し方なんてわからなかったけれど、父から失礼のないよう言い含められていたし、手探りながら優雅で在ろうと努めてきた。
『だれだ』
 警戒されるのも無理はないと、膝を折ってにこっと微笑みかけた。
『こんにちは、私は時臣。ギルガメッシュ、あなたと遊びたくて来ました』
 年長者に敬語を使われるのも慣れているのだろう、少女はぱっと顔を輝かせた。
『ほんとに? 父さまも母さまも、ずーっとあそんでくれないのに、いえから出ちゃいけない、って』
『じゃあ、庭なら大丈夫でしょう』
 おそらく、両親は来客応対で手一杯なのだろう。娘に構う暇もないが、一人で出歩かせるわけにもいくまい。
 ギルガメッシュはちゃんと言いつけを守っているのだ。
 小さな手を引いて、木々を縫って足を進める。広い庭だがひとりで駆けてもすぐ飽きてしまうだろう。
『何をして遊びますか?』
『――ままごとがいい』
 金糸の髪を揺らし、だめ? と服の裾を摘まれ問われ、安心させるため力強く頷いた。

 同年代の子とはあまり接した経験がないのか、随分手探りな“ままごと”だった。ギルガメッシュは時臣を従者か何かに見立てているらしく、次から次へと命じられた。
 どれもが他愛のないわがままだった。そのうちの一つ、彼女のためにシロツメクサの首飾りを作ろうとして、あまりの手際の悪さにもういい、と拗ねられてしまった。
(……困ったな)
 不器用なので、これまで苦手なことは大概練習することで身に付けてきた。が、花を編むのは初めてで。
 そうだ、沢山の花をうまく連ねることが出来ないなら――時臣は一輪だけを拝借し、せっせと格闘した。
 頬を膨らませてそっぽを向いたギルガメッシュの正面に回る。
『なんだ、これ』
『指輪です』
 頑張ったがぐちゃぐちゃになってしまった。やはり、気に召さなかったのだろうか。 
『くれるのか?』
『ええ。手を出してください』
 恭しく屈んで白い指を取る。小ぶりに作ったつもりだったが、幼い少女にはまだぶかぶかだ。
 それでも、ギルガメッシュは不格好な指輪を空にかざして嬉しそうだった。
『ありがとう!』
 人形めかした整った美しさが、綻ぶことで生気を増す。咲いた笑顔があまりに眩しくてどきりとした。

 僅か二時間の邂逅で、ギルガメッシュはすっかり時臣に懐いた。
 以後、事ある毎に呼び出されたり、あちらが来たりして、八歳差の交流が始まった。
 敬語の癖は抜けなかったが、兄妹のようでほほえましい、とは、双方の両親の談である。
 だが、時臣が高校に進学した頃から、さすがに遊ぶ頻度は減った。ギルガメッシュにも同級生の友達が何人か出来たようだし、ずっと年上の自分と一緒にいるよりも楽しいに決まっている。



 疎遠になりはしたが、大事な存在であることには間違いないので、構え、と袖を引っ張られたら断る気も起きなかった。
 やることはままごとの延長だが、そうか、臣下ときたか。なるほど、言い得て妙だ。
 王子様とか騎士とか、そういうのに憧れる子ではないのだ、ギルは。
 いつだったろう、好きなお伽話を尋ねたら、ほとんど全部が嫌いだと切り捨てていたっけ。
『いばら姫とかシンデレラとか、お姫様に憧れたりはしないんですか』
『あんなもの待っているだけの能無しじゃないか。言っておくが、私は飾られるだけの姫君とやらに焦がれたことはない』
 華やかに笑う様子は、どこかの国の姫だと言っても通りそうなのに。
『騎士道物語の姫とて同様だ。奴ら、ヒロインなぞ無視して盛り上がっておるではないか。守ると言って女を置き去るだけの男と、幸せになぞなれるものか』
『……それは手厳しい』
 何処であれ側にいてくれる者が理想だと、少女は語った。

「つまり、私が王でお前が臣下だったなら問題ないだろう? 軍師にも忠臣にもなれる」
「かっこいいですね、私の女王は」
 女子小学生を女王と仰ぐ男子高校生、というのも、そこはかとなくいかがわしい構図だ。どちらも全く自然体だけれど。
 ただし、ギルガメッシュの白い頬から耳にかけてが赤く染まっていた。
「どうしたんです、ギル、まさか風邪でも……? 送りますから早く屋敷に帰って休んだ方が、」
「ち、ちがう、私は元気だ! お前があんなこと言うからっ」
 顔色変化は敏感に察するくせ、時臣は鈍い。いや、ギルガメッシュはそういう対象ではないのだと暗に告げているのか。
 優しさと残酷さが滲んだ、触れる指先が愛しくて憎らしい。
(私の女王、なんて)
 大きな掌で、慈しむように頭を撫でられたら、錯覚してしまいそうになるではないか。
 彼の手は、別に自分を包むためにあるわけじゃないのに。

 ようやく十歳になったばかりのギルガメッシュだが、理解しているつもりだ。
 時臣が嫌な顔せず己に付き合ってくれるのは、ひとえに、家同士の力関係が作用しているに過ぎないのだと。
「おじさまから聞いたぞ。お前は、そのうち冬木から離れてしまうんだろう」
「ご存じでしたか」
 大学に通っている間だけですよ、と、あっさり首肯してみせる。
「家業を継ぎたいですし、卒業したら戻ります。どうせなら整った環境で勉強したいですから」
 せいぜい院修了までだと笑うこの男は、最低でも四年は会えないことに打ちひしがれているギルガメッシュの表情の翳りに気づかない。さらには追い討ちの一言を紡ぐ。
「帰ってきたら、ギルはさぞ綺麗になってるでしょうね。彼氏とかいたりしたら寂しくなります」
 ――でも、いつか結婚式には招いてくださいね。なんたって私は貴女の兄みたいな者なんですから。

 最後まで言うことはできなかった。兄、のくだりでぶちぎれた少女の、渾身の頭突きを喰らったからである。
「時臣の、ばか」
 捨て台詞を叫んで、そのままギルガメッシュは駆け去った。



「う、ひっく、うええん……時臣なんて、時臣なんてっ! 大学で美人に惚れて騙されて貢がされたあげく手酷く捨てられてしまえ……!!」
「具体的かつ恐ろしい呪いだなオイ」
 面倒な奴だ。ディルムッドは盛大にため息を吐いた。
 よりによって頭突きに訴えるなんて愚かな。自分にもダメージ必至なのに。
 けれど、もちろん流す涙は痛みのせいのみではないのだろう。
 ギルガメッシュとは入学式以来の付き合いであるから、突然来られるのもぐずぐず泣かれるのもまあ許容範囲内だ。普段は勝ち気で誰にも譲らないこの友人の弱点が“時臣”なのだと、知っているのは自分を含め一握りだけ。
「よし、そろそろ涙も落ち着いたろう。顔を拭け、ギル。みっともない面で家に帰ったらおじさんとおばさんに心配をかけてしまう」
「うん、私の両親を労る前にちょっとは私に気を遣ってくれても罰は当たらんぞ」
 想い人に失恋の呪いをかける少女に、一体どんな気を遣えというのだろう。つくづく羨ましい性格をしている。
「気は済んだな? どっちにしても夕方だしさあ帰るぞ」
「ディル、お前こんなに女子の心をわからないのに何故モテるんだ?」
 答えは“イケメンだから”に尽きるのだが、本人はまだそこまで悟っていない。
 男子全員と仲良くしたいのに、「ディルムッドは女子さえいれば退屈しないだろー」的に同性には除け者にされ、といって、女子と居ると必ず自分をめぐって対立が起こる。
 特に女子と二人きりになると身の危険を感じるので、彼が安らげるのは家族か数少ない友人と過ごす時間なのである。
 ギルガメッシュやアルトリアは、性別を意識せずディルムッドと向き合ってくれる貴重な存在なのだ。

「おじゃましました、帰ります」
 玄関先で、食事の支度をしているディルムッドの母に挨拶をする。
「はーい、またね……あら、ギルちゃん泣いてた? うちの息子の仕業なの?」
「おばさま、ディル君のせいではないので包丁置いてくださいっ」
「そう、なら良かった。ディル、ギルちゃんを責任持って送り届けるのよ」
「わかった」
 一人で大丈夫だと断ろうとしたが、最初からそのつもりだったらしいディルムッドは既に靴を履いていた。

 ふらついているから危なっかしいと、並んで歩くだけじゃなく強制的に手をつながれた。
「お前ファンの女子に目撃されたら明日が怖いからはなせ」
「俺とアルトリアで助けるから平気だ。放っておくと車道にはみ出そうなくせに強がるんじゃない」
 武道を習っているというディルムッドの手はごつごつしている。
 時臣の手はもっと大きいけれど、細くてしなやかで――無意識に比較を始めていて、意図せず頬が緩んだ。



 ギルガメッシュは時臣を想いぼーっとしていて、ディルムッドは友人を安全に歩かせるために進行方向に着目していたので、どちらも気づかなかった。
 道路の反対側、彼らを少しだけ険しく見つめる蒼い双眼に。
「……ディル君、か」
 礼儀正しく真っ直ぐで、申し分ない少年だ。容姿に恵まれたせいで異性とトラブルを抱えているようだが、本人は悪くない。
 気が早いだろうが、あと数年経てば、ギルガメッシュの隣に立ってもお似合いだと囁かれるだろう。
 そこまで考えて、時臣の胸に苦い感情が広がった。
 妹みたいに可愛いがっている少女が、寄り添うのに相応しい相手を見つけたのに、どうして素直に喜んでやれないのか。
(あの子は私を臣下と呼んだが、さしずめディル君は騎士か?)
 時臣は首を振る。無意識のうちに蓋をし鍵掛けて、真っ先に否定した可能性。
 まさか、そんな。あってはならないことだ。
 自分がディルムッドに嫉妬している、なんて。




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