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つむぎとうか

   
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転生義兄弟11
タイトル思いつかない小ネタ11。

 空港に向かう電車の中、時臣と綺礼は小声で話し合っていた。
 切嗣は用事があって見送りにまではいけない、と残念そうに語り、雁夜にはさっさと臓硯さんに卒業証書見せてあげたら、と帰宅を促した。
 間桐家は朝、これまでの感謝を丁重に述べて退去している。出発日時は既に両親に伝えてあり、あとは身一つで出発するだけだった。
 妙なことになった。このタイミングで、弟子だった彼の記憶保有を明かされるだなんて。

「ずいぶんと軽装ですね、荷物はどうなさったんですか」
「既に送ってある。足りないものは落ち着いてから補うつもりだった」
 大して膨らんでいない学生鞄に、先程の綺礼と切嗣からのプレゼントを追加して、仰々しい旅装とは正反対の印象――まるで風来坊だと、それこそ優雅な彼には似つかわしくない感想を抱きながら、久しぶりに間近で見る横顔を観察する。
 寄る辺を失った船みたいに、頼りなげな蒼い双眸が、時折窓の外の景色をとらえては揺れていく。
「先刻の話ですが、」
 時臣がゆっくり息を呑む様子に、ああそうか、このひとは思い出したのかと得心がいった。
「確かに私は、生まれる前の昔を覚えています。時臣師、貴方を殺めた第四次聖杯戦争でのことも……あの戦いを生き抜いた私は、そののち起こった五次にも参戦しましたが、転生した先の顔なじみは四次のマスター達だけでした」
 ――ただし、例外がいます。おわかりですね?
「ああ。ギルガメッシュはサーヴァントだったのに、なぜ我々の中に混じっているんだ?」
「戦争終盤にイレギュラーが起こったのですよ。汚染された聖杯の泥を浴びて、アーチャーは受肉し、人として生まれ落ちたのです」
 時臣は初耳であろう、彼の死後の戦況を、綺礼はそれ以上語ることはしなかった。
 五次に関しても明言する必要はない。彼の娘たちは輪廻の輪に巻き込まれたわけではないのだから。
 それに、かつての師が自分を恨んでいないだろう確信があった。自惚れや傲慢ではなく、魔術師・遠坂時臣の価値観を弟子として十二分に理解していた。
「私は、貴方を殺し――敵たちと向き合い、己の愉悦を見出しました。だから、生まれ変わってまでの願いは懐いていないのです」
「けれど綺礼、なら他の者は? 須く望みを持ち合わせたマスターばかりじゃないだろう!」
 果たして、それはどうだろうか。
 ケイネスとソラウは、どちらか、或いは両方が情の通わなかった関係のやり直しを。ウェイバーはのち時計塔で大成しても生涯イスカンダルと馳せた戦場を忘れられなかったのだろうし、葵は夫を奪われた無念を。雁夜は生まれ変わってもやはり彼女に恋をした。
 切嗣は妻子や久宇舞弥への自責を拭えず、程度は異なれど皆何かしら心残りがあった。雨生龍之介が転生していないらしいのが根拠である。
「では、“彼”には一体どんな願いが?」
 かつては王と敬い、再会して数年は義弟として接した“ギル”の望みは。

(出逢った時期が答えなのではありませんか)
 約二年間、綺礼は時臣と親しい関係を築き、ついでにギルガメッシュにも適度にちょっかいをかけてきた。完全に愉快犯だったが、実にからかい甲斐のある元主従であった。
 喉元まで出かけた言葉を呑んだのは、ちょうど電車が空港の最寄り駅で止まり、開いた扉の先で構えていた影を認めたからだ。
「本人に聞いてみるのが早いでしょう」
 駅で待ち伏せていたのは、ギルガメッシュその人だった。

   +++++

 ――ああ、どこまでも面白がらせてくれる!

 内心歓喜状態の綺礼を置いて、義兄弟は向かい合う。
「二ヶ月ぶりだな、時臣“義兄さん”」
 抑えながらかえって滲む怒りというのは、それはそれは恐ろしいもので。
 時臣はすぐさま逃げたかったが、飛行機に遅れるわけにはいかないし、空港に行くならまず駅の改札を出なくてはいけない。
 ところがその進行方向には、体格はさほど変わらないがオーラで圧倒しているギルガメッシュが立ちはだかる。
 会いたくなかった。彼には見つからず行ってしまいたかったのに。
「どうして、ギルがここに……」
「義父さん母さんから聞いたに決まっているだろう」
 しまったと天を仰ぐ。口止めを思いつかなかった自分が信じられない。
「久しぶりのきょうだい水入らずだからな。割り込むなよ、綺礼」
 言い残して、ギルガメッシュは時臣の腕を引き連れ去って行く。一応は空港方面の出口を目指しているようだ。
 邪魔はしないがこっそり追いかけなくては、と、綺礼も気配を消して後に続いた。





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